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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)7750号 判決

原告(甲事件)

富士火災海上保険株式会社

原告(乙事件)

阪神物流サービス株式会社

被告(甲事件)

武田保彦

被告(乙事件)

浅野道仁

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一一二万円及びこれに対する昭和六二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金二四万二八六八円及びこれに対する昭和六二年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じこれを五分し、その二を甲事件原告及び乙事件被告の負担とし、その余を甲事件被告及び乙事件原告の負担とする。

五  この判決一項及び二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(甲事件)

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一八〇万円及びこれに対する昭和六二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(乙事件)

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金六一万二一七〇円及びこれに対する昭和六二年六月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

(甲事件)

本件は、自動車所有者と自家用自動車総合保険契約を締結し、自動車どうしの衝突事故につき、右契約に基づいて右所有者に損害(物損)を填補した損害保険会社が、右事故の相手方運転手に対して求債金の支払を請求した事件である。

一  甲事件原告は、訴外天理教日野大教会(以下、「訴外教会」という。)との間で、以下の自家用自動車総合保険契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。

1 契約締結日 昭和六二年一月二五日

2 保険種類 SAP

3 証書番号 KV―六九三二五九―九(枝番)六一一二二

4 保険期間 昭和六二年一月二五日から昭和六三年一月二五日

5 契約車両 BMW(滋三三サ四九三九号、以下、「A車」という。)

6 なお、本件契約の約款には、以下の定めがある。

(一) 甲事件原告は、衝突、接触、墜落、物の落下、火災、爆発、盗難、台風こう水、高潮その他偶然な事故によつて保険証券記載の自動車に生じた損害を、この車両条項および一般条項に従い、被保険者に対しててん補します。

(二) 被保険者が他人に損害賠償を請求することができる場合には、甲事件原告は、その損害をてん補した金額の限度内で、かつ、被保険者の利益を害さない範囲内で、被保険者がその者に対して有する権利を取得します。

(以上の事実は、当事者間に争いがない)

二  甲事件被告は、昭和六二年六月九日午前九時三〇分ころ、普通貨物自動車(神戸一一い九七〇二号、以下、「B車」という。)を運転して、大阪府豊中市蛍池西町三丁目五五五番地先路上を、乙事件被告運転のA車に追従して走行し(以上の事実は、当事者間に争いがない。)、左側車線に進路変更しはじめたところ、同じく左側車線に減速しながら進路変更をしていたA車の左後部にB車の前部中央よりやや右側が衝突した(乙一、乙二の四、五、乙四、甲事件被告本人、乙事件被告本人。以下、右交通事故を「本件事故」という。)。本件事故により、A車は本件道路左側の緑地帯に飛びこみ、立木、フエンスに衝突し、A車は大破した(右事実は、当事者間に争いがない。)。

三  本件事故によるA車の損壊の程度は全損であり、その修理見積額は、金二〇三万五七〇〇円であつた(当事者間に争いがない。)。

四  甲事件原告は、昭和六二年一二月一五日、本件契約に基づき、訴外教会に対して、A車の時価相当額金一八〇万円から、A車のスクラツプとしての価格金一〇万円を引いた金一七〇万円を支払つた(甲三ないし五。請求額も右同額。)

五  争点(事故態様及び過失相殺)

甲事件原告は、本件事故は、甲事件被告がB車の進路を左に変更するに際し、前方を走行する車両の動静を注視し、安全を充分確認したうえで進路変更すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り左側合流車線に気をとられ、前方を走行するA車の動向に充分注意することなく漫然と加速しながら進路変更した過失によつて発生したものである旨主張する。

これに対して、甲事件被告は、右過失を否認し、さらに、本件事故は、A車を運転していた乙事件被告が、左方への進路変更に際し、左方を確認したのみで、後方の安全不確認のまま、方向指示器も点灯せずにB車の直前に割込み進路変更した過失によつて発生したものであつて、仮に甲事件被告に過失があるとしても、乙事件被告の右過失を考慮すると、九割の過失相殺がなされるべきである旨主張する。

(乙事件)

本件は、本件事故によつて損害(物損)を蒙つた車両(B車)所有者が、右事故の相手方(A車)運転手に対し、民法七〇九条に基いて損害賠償を請求した事件である。

一  乙事件原告は、B車(昭和六一年七月二九日登録のニツサンデイーゼル)を所有している(乙五)。

二  B車は、本件事故により、前部中央よりやや右側部分が凹損した(乙一、四)。

三  乙事件原告が本件事故によつて蒙つた損害は、以下のとおり合計金五三万二一七〇円である(請求額も右同額である。)。

1 B車の修理代金一三万七一七〇円(乙六の一)

2 B車のレツカー代金一万五〇〇〇円(乙八)

3 A車が本件事故によつてネツトフエンスを破損したことにより、乙事件原告がその修理先に支払つた右ネツトフエンス補修工事代金三八万円(乙七の一ないし四)

四  争点(事故態様及び過失相殺)

乙事件原告は、本件事故は、甲事件における甲事件被告の主張と同様の乙事件被告の過失によつて発生したものである旨主張する。

これに対して、乙事件被告は、右過失を否認し、本件事故は、甲事件における甲事件原告の主張と同様の甲事件被告の過失によつて発生したものである旨主張する。

第三争点に対する判断

一  事実

前記第二(甲事件)二記載の事実に、証拠(乙一、乙二の四、五、甲事件被告本人(措信しない部分を除く。)、乙事件被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場付近の状況は、別紙図面記載のとおりであり、本件事故地点は、三車線及び二車線の各南行道路が合流して、南行五車線の道路となる合流地点付近である(別紙図面記載の〈×〉地点。以下、○で囲んだ記号は、いずれも別紙図面記載の記号を示す。)。

2  本件道路(本件道路地点付近)は、最高速度が時速四〇キロメートルに制限されたアスフアルト舗装の平坦な道路であり、本件事故当時降雨により路面は湿潤の状態であつた。

3  乙事件被告は、A車を運転して、時速約四〇キロメートルで、〈ア〉から〈イ〉へと進行して前記合流地点にさしかかつた(その際、A車のすぐ後方に後続車両がいることは認識していた。)が、本件道路が初めて通る道路で、道が分らなくなつたことから、合流した道路の左側(東側)路肩に停車して地理の確認をしようと考えた。そこで、左方向に進路変更するために、〈イ〉地点(本件事故地点の約一一・一メートル手前)付近で、目視により、左側車窓から左方車線の車両の有無を確認したところ(なお、A車は左ハンドル車であつた。)、左方車線にはA車の前後いずれにも走行車両がなかつたことから、安全に進路変更できるものと考えて、後方の確認をせず、方向指示器の操作もしないまま、アクセルを緩めて減速しながら、ハンドルを左に切つて左方に進路変更し、約一五〇メートル前方の左側路肩方向に向かつて走行しはじめた。その直後、A車が〈エ〉(〈×〉)地点にさしかかつた時に本件事故が発生し、A車はその衝撃で、本件事故地点から約二五・五メートル前方の本件道路左側の緑地帯内(〈オ〉)にとびこんだ。

4  甲事件被告は、B車を運転して、約一二メートル前方のA車に追従して、時速約四〇キロメートルで〈1〉地点(本件事故地点の約六〇メートル手前)付近を南方に向かつて走行していたが、前記合流地点付近で左側隣接車線に車線変更しようと考え、〈ア〉地点(本件事故地点の約四八メートル手前)付近まで進行した際に、左方の方向指示器を点滅させた。そして、〈2〉地点(本件事故地点の約二二メートル手前)付近にさしかかつた時、その約一一・二メートル前方(〈イ〉)を走行中のA車が方向指示器を点滅させないで進行しているのを認め、A車はそのままの車線を進行するものと考えて、時速約五〇キロメートルに加速しながら左方車線の交通状況のみを見て、前方のA車の動静をその後充分に確認しないまま、左方への進路変更を開始し、合流地点直前のゼブラゾーンの一部を越えながら、左方隣接車線に進入した。B車が〈3〉地点(本件事故地点の約六・四メートル手前)にさしかかつた時に、甲事件被告が再度前方を見たところ、その前方約四・五メートルの地点(〈ウ〉)に、減速しながらB車の進入車線に入るべく車線変更中のA車を認めて衝突の危険を感じ、急制動の措置を講じたが及ばす、本件事故が発生した。

二  判断

1  本件事故現場のような道路の合流する地点付近では、進路(車線)変更をする車両がしばしばあることは、車両運転者として当然予見しうるべきものであるから、そのような地点で車線変更する場合には、合流車線の交通状況のみならず、前方車両や後方車両の動静を充分注意するべき義務があるというべきところ、甲事件被告は、右義務を怠り、左側合流車線の交通状況に気をとられ、前方を走行するA車の動静を充分注意することなく、制限時速を一〇キロメートル超える時速五〇キロメートルに加速しながら、ゼブラゾーンの一部を越えて車線変更した過失があり、他方乙事件被告においても、右義務を怠り、左方に進路変更する際に、左方車線の交通状況を確認したのみで、B車が後方を追従走行するのを知りながら、B車の動向を充分注意することなく、方向指示器も操作しないまま進路変更した過失がある。

2  そして、双方の右各過失の内容、程度に加え、前記認定の本件事故発生の状況、態様を総合して考えると、双方の過失割合は、甲事件被告六割、乙事件被告四割とするのが相当である。

三  甲事件について

1  前記損害額金一七〇万円から四割を控除すると金一〇二万円となり、これが甲事件原告が甲事件被告に対して求償しうるべき損害額となる。

2  本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当額は、金一〇万円と認めるのが相当である(請求額金一〇万円。)。

四  乙事件について

1  前記損害額金五三万二一七〇円から六割を減じると金二一万二八六八円となり、これが乙事件原告が乙事件被告に対して賠償請求しうべき損害額となる。

2  本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当額は、金三万円と認めるのが相当である(請求額金一〇万円。)。

(裁判官 本多俊雄)

別紙図面

〈省略〉

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